この前の年末年始の東南アジア旅行で一番長く滞在したのはベトナムです。

ベトナムに関する本も何冊か読んだのですが、林芙美子の『浮雲』が青空文庫で無料だったので、Kindleで落として、現地の移動中に読みました。

戦後間もなくして書かれた小説です。
概要は下記の通り(引用)。

第二次大戦下、義弟との不倫な関係を逃れ仏印に渡ったゆき子は、農林研究所員富岡と出会う。一見冷酷な富岡は女を引きつける男だった。本国の戦況をよそに豊かな南国で共有した時間は、二人にとって生涯忘れえぬ蜜の味であった。そして終戦。焦土と化した東京の非情な現実に弄ばれ、ボロ布のように疲れ果てた男と女は、ついに雨の屋久島に行き着く。放浪の作家林芙美子の代表作。

仏印というのは、ベトナムのことです。

話題になった『この世界の片隅に』のように、戦争によって、家族や恋人同士の愛が破壊されることも多く、それをテーマにした作品は多いです。

一方で、戦争という特殊な状況だからこそ、育まれる愛というのもあるんですよね。
ただ、そこでの愛は一種の高揚感の中で生まれたもので、長続きはせず破綻しがちです。

現代で言うと、旅先で知り合ったり、学園祭なんかのイベントをきっかに付き合った男女が容易に破たんするみたいな、そういうことを想像してもらうと分かりやすいかも。

そんなわけで、本作は恋愛小説ではあるのですが、戦後、日本の平常な生活に戻って、どんどん関係が煮詰まっていくところが焦点になっています。
本作の主人公のゆき子もそうだし、恋人の富岡もそうなんですが、自由奔放と言うか、性愛に対するモラルに欠けてるんですよね・・・
不倫なんかに対しては、いまの方がうるさいと思います。

反戦小説ではないのですが、間接的に戦争の悲惨さを描いていると見ることもできるかもしれません。

同じベトナムを舞台とした小説(および映画)に『愛人 ラマン』があります。

これも植民地を舞台とした特殊環境での少女の恋愛体験を綴ったものなんですが、映画が本来とは別の方向(エロ視点)で話題になってしまったため、作品としての評価が後回しにされてしまった感があります。

いまにして『愛人 ラマン』を思い出して、『浮雲』と通じるところがあるなあ・・・と気付いた次第です。

『浮雲』と言えば二葉亭四迷の作品が想起されますけど、林芙美子の本作も日本文学史の中でもっとちゃんと評価されていいんじゃないかと思いますね。


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