学生時代に『深夜特急』を持って卒業旅行に行って以来、沢木耕太郎の本は旅のお供になっています。
お盆の徳島旅行の際も、持っていきました。
「愛」という言葉を口にできなかった二人のために (幻冬舎文庫l沢木 耕太郎)
旅ではなく、映画について語った本です。
旅がテーマでなくとも、沢木さんは非日常的な視点からモノを観ているところがあり、旅のお供に向いています。
さて、本作は、『世界は「使われなかった人生」であふれている』の続編。
両方とも気取ったタイトルですが、タイトルが内容を物語っています。
沢木氏によると、映画というのは「愛という言葉を口にできなかった人」で成り立っていると言います。
引き合いに出されているのが『ローマの休日』。
恋愛映画でありながら、お互いの立場上、男女はどちらも愛を「口」にしない。
最近、レビューを書いている『男はつらいよ』シリーズなんて、まさにそうです。
愛を口にできなかったり、人生が思い通りにならなかったりするからこそ、ドラマが成立するんですよね・・・
前作もそうなんですけど、沢木さんというのは映画を題材にしつつ、自分の世界観について語っています。
だから、題材とされている映画がどのくらい優れているのか、というのはさほど重要ではないんですよね。
そういう意味で、映画評論家の文章とはだいぶ違います。
本で題材になっている作品の中で、僕が観たものは意外に少なかったのですが、だから面白くないわけでは決してないところが、沢木氏の筆力だと思います。
まあ、映画そのものではなく、人生を語っているから、面白いと思えるわけですがね。
ちょっとしゃれたバーでセンスの良い友人と会話しているような、そんな気持ちになる本です。
リアル生活ではそういう体験はないんですけどね