先日、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(橘玲)を紹介しました。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』は勉強になったけど、解決策は教えてくれない
こっちの本のレビューを書きます。

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する

橘玲さん、これまでは経済、投資関連本、あるいは現代社会での処世術(?)がメインでしたが。
芸風を変えようとしているのでしょうか?

僕は「読書案内」的な本は結構好きです。

「自分で読む本くらいは自分で探せ!」的な意見もありますが、古今東西、膨大な本が出版されている現在、本当に読むべき本を紹介してもらうことは有用なことですからね。

Amazonの他のレビューアーも指摘している通り、本のタイトルと本の中身はズレています。
元々は「知のパラダイム」が変わっている現在、名著と呼ばれている過去の本でも、読む価値のない本が多くなってきた。
そんな中で、「読まなくても良い本」から、逆に、現代において読むべき本(というか、身に着けるべき知識)を明らかにしていこう・・・という試みのようです。

ただ、あからさまに「読まなくても良い本」が紹介されているわけではありません。

容易に推測はできますが、ドゥルーズ・ガタリ等のフランス現代思想、フッサール、フロイト、ハイデッガー、マルクスあたりの著書が「読まなくても良い本」となりますかね。
さすがに、これらの大御所をあからさまに全部を否定することには気が引けたんでしょうか・・・?

ちなみに、全体のトーンとして言えるのは、「人文科学の研究は、最先端の科学研究により乗り越えられてしまった」ということです。

そういうことで、本書のテーマは理系の研究を中心とする下記の5つ。

複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義

たしかに、最新の学問研究の成果が、コンパクトにまとまっていて、これ一冊読んでおけば、教養が豊かになり、頭が良くなった気がします。

橘氏の過去の著作を読んでいても、学術研究の成果を引用していることが多いので、追加で新しい知識も仕入れつつ、一冊の本としてまとめてみた・・・というところでしょうか。

先端技術を紹介する著者としては立花隆が有名(最近はそうでもないですが)ですが、書き方は立花隆ほど粘着的(?)ではありません。
綺麗に整理されているという点では、トーンは浅田彰の『構造と力―記号論を超えて』に近い感じがしました。
(と言っても、こっちを読んだのは20年以上も前になりますが)

ただ、やっぱり何点か疑問は残ります。

まず、ドゥルーズ・ガタリの「リゾーム」の概念は「フラクタル」で置き換えられる的なことが書かれていますが、僕の理解では、ちょっと違うんじゃないかと思いますよ。
そもそも、複雑系自体、森羅万象の説明が可能なものではなく、適応範囲はかなり限定されているはずです。
複雑系は90年代に爆発的に流行りましたが、いまは科学の一分野として細々と生きのびている感じではないでしょうか? サンタフェ研究所にしても、当時こそ注目を浴びたけど、残念ながらその後、華々しい成果は伝え聞きません・・・

後、脳科学の章では、クオリアとか、右脳-左脳といった、科学的に証明されていない議論が出てきているのもちょっと気になりました。

「よく勉強されてるなー」とは思いましたが、さすがに著者の専門外の領域に関しては、限界もあるようですね。

本書にも書かれていますが、理系の学問は日進月歩進歩している反面、文系の学問は進歩していない。
それは事実だと思います。
ただ、科学は進歩するがゆえに、古い理論は新しい理論によって塗り替えられてしまう可能性も高いということです。
となると、本書で書かれていることも、数年たてば古臭くなる可能性もあるのではないかと思います。
(必ずしも、それは悪いことではないですが)

もうひとつ。
科学の世界も完全に客観に基づいて直線的に発展するわけではないことは、『科学革命の構造』(トマスクーン)を引くまでもないでしょう。

著者はこの辺の議論を知らないわけではないと思いますが、これを論じはじめると、主旨が揺らぐので、あえて捨象しているものと思われます。

「文系学問よりも理系学問が先を行っている」というのは、たしかに最近では当てはまるところは多々あるかもしれません。ただ、著者も影響を受けたと言っているミシェルフーコーはじめ、19世紀の「構造主義」の成果は、後の時代になって科学によって客観的に裏付けられたり、発展したりしたという見方もできる気がします。

あと、理系の学問と言うのは、適応できる範囲においては非常に強力ですが、そこから外れてしまうと、存外に無力です。
そのことは、研究者の方が強く自覚していると思うんですよね。
僕の知っている研究者はみんなそうで、シビアに理論の適応可能範囲を見極めようとしています。

文系-理系の区切りが、いまや意味がないことは重々承知していますが、あえて言わせてもらうと、橘玲氏もそうですし、立花隆もそうですし、文系学部廃止を唱える下村文部科学大臣もそうですが、文系出身の方が理系の学問を過大評価しがちだと思うんですよね。

厳しい意見は書きましたけど、副題にある通り「知の最前線を5日間で探検」できる良書であることには変わりありません。
忙しいビジネスマンが、効率的に学問のトレンドを吸収するには非常に効率の良い本だと思います。


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