『半沢直樹』はとっくの昔に終わっていますが、やっとのことで、ドラマ後半の原作小説『銀翼のイカロス』(池井戸潤)を読みました。
前にも書いた通り、普通は原作を先に読んでから、映画やドラマを観る方が良い(小説を読むときに、映像に引っ張られず、自分の視点で読めるから)んですが、『半沢直樹』シリーズに限ってはドラマ→原作という順番の方が面白いと思っています。
前半の『ロスジェネの逆襲』に関しては、上記を参照してください。
小説とドラマは基本的なストーリーの流れは同じなのですが、細かいところは結構違うし、受ける印象もだいぶ違います。
**** 以下、ネタばれあります ****
小説の方は、前作との連続性はありつつも、出てこなくなる登場人物も多いんですが、ドラマは結構再登場が多いです。
- 大和田は出てこない(大和田の役は「内藤部長」が担っている)
- 花ちゃん(上戸彩演じる半沢の妻)は出てこないし、そもそも半沢の家庭も全く出てこない
- 前半(『ロスジェネの逆襲』編)に出てきた、スパイラル社長の瀬名洋介(尾上松也) も出てこない
新し登場人物が多いと混乱するのもあるでしょうが、人気キャラクターを再登場させるのは、視聴率を確保する点でも良いやり方でしょうね。
大和田を登場させたのは、ドラマの脚本の優れた点ですね。
新作では、一貫して大和田と半沢は共闘することになるんですが、大和田が味方なのか敵なのかは最後まで分からないので、そこにも興味津々で見ていられます。
ただ、旧作であれだけ、半沢にねじ伏せられた大和田が、利害のためとはいえ、半沢と共闘することになるのは、やや不自然な感じもありますが。
金融庁の黒崎も出てきますが、小説の方では、半沢に歩み寄る感じではないです。
江口のりこ演じる白井議員も、最初は敵対していたのが、最後に寝返って半沢川に付きますが、小説では最後まで敵対していますね。
ドラマでは「女性が活躍する時代」を演出して、女性の共感を得るためにこういう演出にしたんだと思います。
小説版では、善悪の対立がはっきりしていますが、ドラマの方はどっちなのか分からない人、途中で寝返る人もいて、深みが出ている感じがありますね。
池井戸さんの小説は、わかりやすくはあるんですが、人物描写というか、人物造詣が類型的すぎる感があります。
ドラマでは、そこを俳優さんが独自の解釈も加えて、しっかりキャラクターを作ってきているし、そうしたキャラクター同士の丁々発止のやり取りが面白いのですよね。
最強のラスボス、箕部幹事長にしても、小説ではあまり怪物的な印象はなかったんですが、柄本明が圧倒的な存在感を出していて、緊張感を高めてくれました。
一方で、小説の方では、ドラマでは説明しづらい経済環境や社会的な背景、金融や経済の多少専門的なことも書き込まれているので、そこは良く理解できますよ。
半沢の盟友の渡真利忍(及川光博)、鉄の女・谷川(西田尚美)はかなり原作に忠実に演じされていたと思います。
小説では、谷川の登場は少なく、ドラマで話題になった号泣シーンは小説ではありません。
ドラマでも小説でも、どうやって谷川が開発投資銀行の行内をまとめて債権放棄の拒否に導いたかが書かれていなくて、唐突感があったんですが、そこは少なくとも小説ではもう少し書いてほしかったなあ……という思いはあります。
小説の方では、ドラマで話題になったような決めゼリフはさほど出てきません。
「倍返し」にしても、小説でも数回は使われていますが、ドラマほど頻繁には出てきません。
小説の方も、対立する相手同士の丁々発止のやり取りは子気味良くて、ここはドラマより詳しく描かれてます(ドラマでやるとくどくなりすぎるかも)。
池井戸作品って、物語のプロットがしっかりしているし、展開の緩急も良いし、人物造詣は明確ではないけど、逆に映像化の時に独自の解釈で造詣できるし……で映像化しやすいんだと思います。
そんなこんなで、ドラマ・映画と原作(小説)を比べてみると、色々と勉強になるところは多いですよ。