報告遅れましたが、明治座の『細雪』のレビューです。
説明するまでもなく、谷崎潤一郎の名作小説の舞台化です。
谷崎は、本作を第2次大戦中に神戸の自宅に籠って執筆したそうで、戦争とは距離を置きつつも、作品世界の裏側には戦争の影がちらついていますね。
反戦小説とは言えないのですが、谷崎の戦争に対する批判意識があらわれていると思います。
映画の『細雪』は以前レビューを書きました。
映画では、家族の確執というか、人間関係の機微というか、そういうところにウエイトが置かれていました。
舞台の方でも、もちろんそれは描かれているのですが、むしろ時代の変化の中で、時代に翻弄されつつも、それに流されることなく、主人公四人の女性がどう生きたのか、という「生き方」の面がクローズアップされていました。
原作がそうなのか、舞台化の際にそうなったのかは良く分からないのですが、チェーホフの影響が強いように思われました。
本作の主人公が四人姉妹で、チェーホフに『三人姉妹』という作品があるという安直な対比ではないですよ。
時代の変遷の中で、人間関係の機微とか、思うように生きられない人の哀しみとか、そういうものが淡々と描かれているところが似てるんですよね。
ちなみに、平日の昼間だったせいか、座席は70%くらいしか埋まってませんでした。
5割が定年退職組、3割が主婦層、残り2割が会社員や自営業者・・・みたいな構成かなと思います。
実は、僕はチケットショップでB席(3階席)6500円⇒3500円という安値で売られていたのを買ったんですよね。
最も安いチケットは3000円でしたが、日程が合わなかったんですよね。
ちなみに、僕の隣の二人は、1幕目から寝てしまっていて、2幕目には二人とも帰ってしまいました。
いかにも、「タダでチケット貰ったから来てみた」という感じだったんですが、こういう人は最初から来ないでほしいなあ・・・
さて、空席が目立ったのは、人気がないというよりは、公演期間が長いのと、すでに何度も公演されているので、顧客をほぼ取り尽くしたからかと思います。
「上演回数1500回」を売りにしていますからね。
ロングランしているだけあって、王道的で良い公演になってます。
主演は、賀来千香子・水野真紀・紫吹淳・壮一帆と、結構豪華な顔ぶれです。
美しい女性4人が着物を纏って登場するだけで、絵になります。
それに、旧家のレトロな雰囲気と、季節の移り変わりの描写が加わります。
ひとつひとつのシーンが絵になります。
考えてみると、『細雪』は、非常に舞台映えする作品だったんですねえ。
ビジュアルだけでなく、物語の展開も舞台に馴染んでいるなあ・・・と思いました。
時代が変わっていく中で、古いしきたりの中で生きる女性、新しい考えを持って自由に生きる女性、それぞれの生き方が交錯していきます。
伝統的な日本の美意識を描いているように見えて、四姉妹たちには近代的な自我が芽生えているんですよね。
さて、明治座には初めて行ったんですが、明治というよりは、昭和レトロな雰囲気ですね。
演目が演目だけに、着物を着ている女性も目立ちました。
最後に、満開の紅枝垂れ桜の下、四姉妹が並び立ち、セリフを語って、舞台後方に去っていき、手幕切れになります。
そこでのセリフ、「どんな世の中になってもあの花だけは咲き続けますのやろな」というのが作品全体を象徴しています。
時代は変わり、それに翻弄されつつも、美しく生きていくという静かな決意。
じわっとした感動に包まれながら、哀愁を覚えながらも清清とした気持ちで帰途に就くことができました。
奇を衒ったところのない、王道路線の名作でした。