自宅にこもってますので、頑張って読書にいそしんでいます。
普段ならあまり読まない古典、難解な本、長い本を読もうと思っています。
いちおう、棺桶リスト(人生のやりたいことリスト)の中に、「『必読書150』(太田書店)で紹介されている本をすべて読破する」というのがあります。
ラインアップについては、本ブログでも紹介していますので、興味ある方は一読ください。
さて、今回読んだのはトマス・モアの『ユートピア』です。
「ユートピア」というのは誰でも知っている言葉ですが、トマス・モアがこの本で作り出した「どこにもない場所」という意味の造語なんですよね。
言葉を知っていても、読んだことのある人はほとんどいないと思います。
僕自身も、いままで読んだことがなかったのですが・・・
本書を選んだのは、本が自宅にあったこともあるんですが、こういう時代だからこそ、理想社会(ユートピア)について考えてみるのも良いんじゃないか? と思ったからです。
イメージとは裏腹に、ここで書かれるユートピアは「楽園」のような世界ではないし、本書が書かれた意図は、当時のイギリスの政治や社会制度を批判することに主眼があったんですよね。
で、「ユートピア」という国なんですが、意外に現実的で、戦争もすれば、奴隷もいるんですよね。
ただ、みんなが社会のルールに従って生活し、強欲にとらわれずに、安定的な社会を築いている。
離婚も婚前のセックスも禁止・・・と、現代のわれわれからすると窮屈な社会に思えるところもあるわけですが、著者のトマス・モアはキリスト教に基づく共産主義的な社会を「理想国家」として想定していたので、まあそういう世界になってしまうわけですね・・・
ただ、現代の日本にも当てはまる、ハッとさせらるような記述も多々あります。
例えば、当時のイギリスの議員に対して、次のような論評をしています、
全くこの手合いときたら、自分自身の評判が少しでも悪くなるくらいなら、むしろ国家が損害をこうむった方が遥かにありがたいと思っている連中で、初めに問題を取り違えたといわれることを恥と思ってどうしても承服しない連中なのである。
労働時間に関しては、ユートピア人が1日6時間しか働かないことに関して、下記のように説明しています。
生活の必需品にしろ文化品にしろ、あらゆる必要な物質を潤沢豊富にそろえるのには、六時間という時間は決して足らないどころか、むしろ多すぎるくらいなのである。このことは、他の国々においてはどんなに多くの国民があそんで生活しているか、ということをとっくりと検討する時、おのずと判明することがらである。
ユートピア国の病院や医療制度に関しては・・・
彼ら(ユートピア人)が一番大きな注意を払っているのは、病院に入院している病人である。(中略)これらの病院は、その大きさ、広さ、そのどっしりと構えている有様はまるで一小都市の観さえあるくらいである。なぜこんなに大きく設計されたかというと、その理由の一つは、病人がどんなに多くてもけっして込み合ったりごたごたしないように、つまり、のびのびと気持ちよく療養できるようにというためである。もう一つの理由は、次々と蔓延して止まることを知らない、例の伝染病にかかった病人を他のものから十分に隔離できるようにというためである。
ユートピア人はお金を貸しても返済は強く求めないのですが、その理由として下記のように説明しています。
自分たちにとっては一文の得にもならないが、他人にとっては大いに得になるところのものを、その人から取上げることは、正しいことでも良心的なことでもないと彼らが考えているからである。
まあ、今の日本に当てはめても、考えさせられるところは多々あります。
そんなことを考えると、いま現代版の『ユートピア』も書かれてしかるべきなのかなあ・・・と思います。
さて、作者のトマス・モアは、イングランド国王ヘンリー8世の王妃との離婚に反対して、処刑されてしまいます。
これについてはアカデミー賞を複数受賞した『わが命尽きるとも』という映画で描かれてますので、興味ある人はこちらもどうぞ!