『フォードvsフェラーリ』を観てきました。
予告編を見たときは、ぜんぜん惹かれなかったんですけどね。
というのも「アメリカ万歳! みたいな映画なんだろうなぁ。あるいは、フォード復活のプロジェクトXみたいな感動物語か・・・」と思ったんです。
フォードなんて、日本車に負けて、欧州車にも負けて、昔のサクセスストーリを今さら見させられてもなあ・・・という思いもありました。
アカデミー賞4部門ノミネートで、批評家の評価も高く、観た人のレビューの大半が良好です。
「それほど評判が良いんなら」と思ってみたんですが、たしかに面白かった!
レースのシーンは、リアリティがありながらも、映像技術が駆使されていて、迫力があります。
さすがはハリウッド映画!と感心させられるわけですが、この映画の良さはそこだけでなく、人間ドラマにあります。
ストーリー自体はありきたりのサクセスストーリーなんですが、切り取り方も、構成も良くできているんですよね。
*** 多少ネタバレあり ***
作品名は「フォードvsフェラーリ」もなってますけど、主題はそこにはありません。
ル・マン24時間レースで王者フェラーリをフォードが打倒したという実話を元にした映画なんですが、ライバルのフェラーリ側のドラマがほとんど書かれておらず、「強敵に挑む」という要素も弱いですね。
一方で、「フォードが果敢に困難に挑戦した」ということが主題でもない。
偉業を成し遂げたのは、フォードではなく、二人の主人公のキャロル・シェルビー(マットデイモン)と、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)です。
エンドロールが出るまで、ケン・マイルズ役がクリスチャン・ベールだって気づかなかったんですが、それくらいなり切ってましたねえ。
(でも本人はアカデミー賞にはノミネートされてないんですねぇ)
さて、この映画の良いところは、
- 会社の意向と時に対立しながらも、二人の主人公はフォードという会社の中で自己実現を果たす
- 二人は時に対立し、何度もケンカしながらも、強い絆で結ばれていて、同じ目的に向かって協力して突き進んでいく
- ケン・マイルズは頑固な男で、事業も一時危機に陥るが、奥さんも息子もマイルズを尊敬し、彼を支えており、家族も円満でいる
というところです。
「カーレースで優勝する」というのは、個人ではできないことですから、どうやって組織の中でうまく立ち回って自己実現するのか? というのが重要になります。
いまの日本の会社員にとっても、身につまされるところが多々あるんですよね。
フォードの硬直した組織体制を批判的に書いていたりもしますが、シェルビーは社長と直接交渉したり、策略を巡らせて、世渡りの下手なマイルズの代わりに、自分たちの主張を通していきます。
会社員でも、すべて会社の意向に従うのではなく、うまく立ち回って自己実現していく・・・というのはたしかに重要なことなんですよねえ。
(僕自身、会社員時代にもっとそうすべきだったと反省するところがある)
マイルズの奥さんはアメリカ人には珍しい(?)良妻賢母な女性ですねえ。
息子もお父さんのことを尊敬し、慕いつつも、ムリして事故したりしないように心配している。
この物語を、単なるサクセスストーリーとして見ずに、「組織の中でどうやって自己実現し、存在価値を作っていくのか」、「仕事に情熱を傾けながらも、家庭を円満に維持していくのはどうすればよいのか」みたいな視点から見れば、リアリティのある物語として、楽しめるんじゃないかと思います。